原子力空母(げんしりょくくうぼ)とは、軍用航空機を海上で運用することを目的に作られた航空母艦(空母)のうち、原子炉を搭載し核反応による反応熱を熱源とする機関を備える戦闘用の船である。全てが原子炉と蒸気タービンを備えた大型の艦船であり、長大な航続力を誇る。
原子力空母は英語では nuclear-powered aircraft carrier と表記されることが多い[1]。米海軍で用いられている記号 CVN は、「原子力汎用航空母艦(Multi-purpose Aircraft Carrier (Nuclear-Propulsion))」を意味する船体分類記号[2]であり、Carrier Vessel Nuclear の略称に由来する[出典 1]。
最初に建造されたのは1960年進水の米海軍の「エンタープライズ」である。移動できる兵器としては人類最大のものである。そのため、多くの映画・小説・TV番組にも登場し、11隻保有する米海軍の象徴的な存在である。
2009年現在、原子力空母を運用しているのは米海軍のエンタープライズとニミッツ級10隻とフランス海軍のシャルル・ド・ゴールの合わせて12隻だけである。旧ソ連海軍も計画していたが、ソ連崩壊により中止された。
米海軍で90機、仏海軍のシャルル・ド・ゴールで40機ほどの各種航空機を艦内に収容して、海上戦闘、航空戦闘、陸上への戦力投射、輸送、軍事活動支援、人道援助、外交などの各種活動に多角的に対応できる柔軟性を持つ。
米海軍では空母打撃群(Carrier Strike Group, CSG)の中核となり、空母の船としての指揮は艦長である大佐が行い、空母航空団(Carrier Air Wing, 略記号ではCVW)の指揮官はCAG(キャグ、Commander, Air Group)と呼ばれる別の大佐が行なう。空母打撃群を指揮する少将のもとに両大佐が直属する。なお、艦長を補佐する副長(XO)も、CAGを補佐する副CAG(DCAG)も共に大佐である。
1艦に2,000人から5,500人もの人員が乗り込み、何ヶ月もの長期(多くが6ヶ月間)に渡り本国を離れた遠い洋上で生活するため、艦内に診療室、床屋、郵便局、売店、教会などを備えた小さな街を形成している。
[編集] 米国の原子力空母外交
2010年現在の時点で原子力空母を語ることは、多くの点で米海軍の原子力空母を語ることになる。
米国の原子力空母を含む大型空母は通常は一隻の空母とミサイル巡洋艦、ミサイル駆逐艦、駆逐艦、ミサイルフリゲートなど複数の護衛艦艇および攻撃型原子力潜水艦、高速戦闘支援艦・給油艦・戦闘給糧艦などよりなる空母打撃群(Carrier Strike Group, CSG)を構成して空母単艦では脆弱な海中や空中からの攻撃などにそなえている。
もともと空母という軍艦は、水上偵察機からはじまって、海上戦闘のための艦上戦闘機や艦上攻撃機を海上で運用することを目的に開発が進められた。真珠湾攻撃で陸地への攻撃が有名になったように陸への攻撃が有効である場合もあるが、第二次世界大戦当時やその直後の段階では大型爆撃機と無誘導爆弾が空から陸上への攻撃の主体であり、狭い空母の甲板では小型の爆撃機ですら運用が難しかった。
ベトナム戦争では、空母発進の戦闘攻撃機が内陸へ爆撃を加えることもあったが、爆撃の主力は地上から飛び立つ戦略爆撃機であった。やがて時代は進み、大陸間弾道ミサイルですらかなりの誘導精度を持つに至ったが、核弾道弾の恐怖からくる核戦争へのリスクが、安易なミサイルの使用を制限し、費用対効果の点でも飛行機による陸への攻撃という手段が徐々に大きな地位を占め始めた。やがて1992年にアメリカ海軍は新しい戦略のキーワードとして「From The Sea」を発表した。その中心は潜水艦による陸地へのミサイル攻撃と合わせて、空母打撃群による陸への「力の投射」戦略である。空母を海上戦闘に使うことより、積極的に陸地を攻撃することを目的とするこの戦略転換により冷戦終結後の軍縮の危機を米海軍は上手に生き延びた。
近年のアメリカ合衆国の、武力によって世界に積極的に関わっていく政策下では、原子力空母の登場する機会が今まで以上に増しており、ここ数年は中東のイラン、イラクと東アジアの北朝鮮、中国を意識した態度表明として、ペルシャ湾内外と日本海、東シナ海に空母打撃群を1-3個程度配備している。これがいわゆる「空母のプレゼンス」で、いつでも必要な時に、必要な種類の攻撃を、必要なだけの規模で行える事で敵性国家や敵性地域の近くの公海上から威嚇しながら、場合によっては情報収集を行うことを指している。この複数の空母打撃群による威嚇は強力で、国際社会における米大統領の力の根源の大きな柱の1つとなっている。
原子力空母の配置について、その第一義的な意義を第50機動艦隊(第5空母群)司令官リチャード・レン少将は、その地域の軍事的安定による紛争発生の抑止にあるとしている。
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