2012年4月30日月曜日

地球人の歴史 2.大自然への挑戦


道具・言語・火

 太古の地球。人類の祖先である猿人が群れをつくり、草の芽を食べたり死んだ動物の肉を食べたりして暮らしていた。そこへ、謎の石版があらわれる。それに触れた猿人は、二本足で立ち上がり、動物の骨を使うことをおぼえる。「武器」を手に入れ、獣や他の群れに勝利した猿人。雄叫びとともに骨を空に投げ上げると、画面は突如、漆黒の宇宙空間に切り替わり、骨のシルエットに重なるように白い宇宙船があらわれる…。

 故スタンリー・キューブリック監督の名作「2001年宇宙の旅」冒頭の場面である。人類が道具を手にしたことで、宇宙空間へ進出するまでに進歩したことを象徴しているシーンといえよう。

 しかし、これはあくまで映画の話だ。実際は、二足歩行をはじめたとたん、人間が道具を駆使して決定的優位に立ったわけではない。

 最初の道具は、映画と同様に、動物の骨や木の棒だったと思われる。しかし、これらは遺物として残りにくいし、出土しても道具なのか区別がつきにくいから、いつ頃から、どのように使っていたのかよくわからない。

 はっきり道具とわかるものとしては石器があり、今のところ250万年前のものが最古とされている。人類はその歴史の半分をすぎたころ、猿人から原人の過渡期に、ようやく石器を手にしたことになる。

 その石器も、石を打ち欠いただけの簡単なものだ。石を砕く作業も試行錯誤と学習が必要だから大きな進歩ともいえるが、自然界での人類の位置づけをがらりと変える性格のものではない。とがった部分で肉を切ったり、木を削ったりしていた程度だろう。


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 さらにいえば、10万年前頃まで、つまり200万年以上も、石器の形態に大きな進歩がみられない。このことは、言語の使用がなかったか、あったとしても機能がきわめて限定されていたことを示唆している。

 道具・言語とならんで人類の特徴とされる火の使用についても、状況は似たようなものだ。アフリカ大地溝帯で発見された140万年前の火の使用跡が最古とされているが、火のおこし方は知らなかったようで、野火や落雷などから偶然にえた火を絶やさないよう努力していたと考えられる。

 では、猿人〜原人段階の人類はどのような生活をしていたのだろうか。二足歩行は草原に適応した形態だが、森林の樹上で生活する類人猿よりもはるかに肉食獣の脅威にさらされていただろう。満足な道具がないため、中〜大型の草食獣を狩ることもできない。最近の研究によれば、肉食動物の目を盗みながら、その食べ残しをいただいていたという「腐肉あさり」説が有力だという。なんとも情けない話で、よく絶滅しないで生き残れたと不思議なほどだ。


拡散する人類

 新人があらわれて10〜20万年たち、今から5万年ほど前になると、人類は徐々に、しかし確実に自然との関係を変えはじめた。

 道具の製造法や形態は格段に洗練されてきた。黒曜石、フリントなどの良質の石材や、動物の骨・角を、精巧に細工するようになった。「切る」「突く」「削る」「穴をあける」など道具の種類がぐんと増えた。槍と、それを遠くへ飛ばす投槍器、「かえし」のついたもりや釣針、後になると弓矢も登場している。


トップテン世界の出来事

 この頃には言語は十分発達していたと考えられ、集団行動や役割分担も巧みになった。火おこしもおぼえ、調理・野獣よけ・あるいは狩りに大いに活用していただろう。ゾウなどの大型動物も狩ることができるようになって、人類は本格的な狩猟・採集の生活を行うようになった。

 この時代は最終氷期といって、平均気温は現在より4〜5℃も低かった。ユーラシア大陸の北辺は氷河に覆われており、現在のフランスにツンドラが広がっていたともいわれる。しかし人類は、糸と針で毛皮を縫い合わせた衣服、炉を備え寒さをしのげる住居を作りだし、果敢に寒冷地へ挑んでいった。2万5000年前には、マンモスやトナカイなどの大型獣を追いながら、北緯60度より北、極寒のシベリアに達している。

 氷期には、地球上の水が大量に氷となって陸上にあった。そのぶん海面は今より低く、陸地は広かった。現在はベーリング海峡で隔てられているユーラシア大陸と北米大陸も陸続きであった。このときに人類は、無人のアメリカ大陸にはじめて足を踏み入れたと考えられる。

ベーリンジア

2万〜1万8000年前まで、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸は「ベーリンジア」とよばれる陸地によってつながっており、この時に人類が北米に渡ったとされる。1万2000年前、氷床が後退すると、人類は内陸部へ進出した。


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 1万2000年前、氷期が終わり、アメリカ奥部への道をはばんでいた氷河が後退すると、人々はアラスカから自然豊かな北米大陸の中心へ、さらには南アメリカへ広がっていった。カナダから南米の最南端まで達するのに、わずか1000年しかかからなかったとする説もある。このときにはすでに、溶けた氷によって海面が上昇し、ユーラシアとアメリカは海で隔てられていた。以後1万年以上、両大陸の人々はお互いを知らないまま歴史を刻んでいくことになる。

 もうひとつ驚くべきことは、5万年前に人類がオーストラリア大陸に渡っているという事実だ。インドネシアの島々は大陸と陸続きで、現在よりも海は狭かったとはいえ、最短でも100kmは離れている。それでも人々は小さな丸木舟をつくり、大洋に乗り出していった。1000年前までには、ハワイ、ニュージーランド、イースター島など、南太平洋を乗り越え、孤島にまで居住圏が広がっている。

5万年前の東南アジア・オーストラリア

海面が低かった5万年前、東南アジアは「スンダランド」とよばれる広大な陸地を形成していた。人類はこの時に海を越え、「サフルランド」(オーストラリアとニューギニア)に渡ったと考えられている。


動物たちの受難


 約1万年前に氷期が終わり、気候が温暖になると、人類はますますその数を増やし、全世界で400万に達したといわれる。激増した人間による活発な狩猟活動は、ただでさえ環境の激変に脅かされていた動物たちにとって大打撃となった。まず、マンモスをはじめとする大型の草食獣が姿を消した。草食獣がいなくなると、それをえさとしていたサーベルタイガーのような肉食獣も滅びた。

 とくに、アメリカ大陸ではすさまじい絶滅が人間の手によってひきおこされた。マンモスやマストドンなど大型のゾウをはじめとして、ウマ、ラクダ、バクなどが狩りつくされた。北アメリカでは大型動物の73%が、南アメリカでは実に80%が絶滅した。オーストラリアでも、狩猟により大型動物の86%が消えたといわれている。

 人類は、南極大陸をのぞく地球のほぼ全域に広がった。そして、あらゆる地域で生態系の頂点に立ち、環境破壊の第一歩も記すことになった。



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